「懐中電灯がついています」 | Sphera Solutions, Japan株式会社


「懐中電灯がついています」

 電車で席に座って例のごとくぼんやりしていた。左上前方で何かが輝いている。夜空にサーチライトを付けたヘリコプターが飛んでいるような雰囲気だった。スマホの裏から強い光線が出ている。

 

 暗闇で落とし物を探すときに便利なスマホの懐中電灯機能だ。(正式にこの機能を何と呼ぶかは知らない。)

 

 しばらくして、スマホを持ったその女性は私の隣に座る。視界からぎらぎらする光がなくなって一安心。ところが向かい側の窓ガラスにスマホから発せられる光が映っている。女性は画面に集中していて、スマホの裏側から光を出していることに気が付いていない。

 

 向かい側に座っている女性が私の隣に座った女性のスマホから強い光が出ていることに気付いたらしい。少しまぶしそうだったが、席を立ってわざわざ注意には来ない。他の物を見ていれば気にならない。たいしたことではないからだ。

 

 どうしたものだろうか。……バッテリーを消耗するだけの話で特に周りに大きな迷惑を及ぼしているわけではない。強いてあげれば貴重なエネルギーを誰も期待していない不要なことに使い続けているということだ。

 

 次の駅で私は席を立ちながら「懐中電灯がついています」と小さく声をかけた。女性は素早く懐中電灯機能を消して、画面のゲームを継続している。

 

 あの時自分はどんなリアクションを期待していただろうか?「ありがとうございました」と返されることは期待していなかった。もなかった。「アラ」とでも言ってもらえばもらえば正常な状態に駒が進んだ確認になったはずだ。……小さなリアクションで、1コマ1コマ進む電車の車内景色……。電車の中にはいろいろな人が乗り合わせている。迷惑だけはかけないようにしたいと思いながら電車に揺られる。

 

 脱炭素社会に向けて、エネルギーを浪費することは避けたい。(C)

コメント 1件

  1. skylineR31gts Says:

    そんなことがあったのですね。何か少しでもリアクションが欲しいですよね。普通なら「ありがとうございます」のリアクションが欲しいですね。せめて「どうも」くらいは。最低限の挨拶くらいは交わしたいものです。

    昔からコミュニケーションが苦手な方はいらっしゃいましたが(私も他人のことは言えませんが)、現代では、スマホにゲームと集団ではなく個人で遊ぶことが多くなっているため、他人とのコミュニケーションが苦手なケースが増えているのでしょうか。

    「脱炭素社会に向けて、エネルギーを浪費することは避けたい。」ですね。

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